高円宮賞(中学生部門)
『ホタル舞うふる里に』

 

福島県

須賀川市立西袋中学校3年生

星 結衣/Yui Hoshi

 

 昨年、会津若松市のホタルの森公園に行った。夜、たくさんのホタルが乱舞するのを見て心を奪われた。しかし、このような光景は、数十年前の日本各地で普通に見られた光景だと聞いて驚いた。ホタルは日本人の心のふる里だと言ってもいい。童謡で「ほぅ、ほぅ。ホタルこい。」と歌われ続けてきたが、現在を生きている私たちにとってそれは、決して身近な光景ではない。ホタルたちはいったいどこに行ってしまったのだろう。

 ホタルといえば、長野県で自然農法に取り組まれる方から、こんな話を聞いたことがある。その男性は、自分の田んぼにホタルがいなくなったことに気づいてはいたが、それも時の流れの中では、仕方がないことだろうと諦めていたそうだ。ところが、ある年突如としてホタルが田んぼに戻って来たのである。驚いた彼は、その理由を調べてみた。秘密は水口のマスと呼ばれる部分にあった。数年前、年月を経て老朽化したマスを取り壊した。彼は、以前のように石砂利を敷き、近くからクレソンをもらってきて植えたのだ。クレソンは大きく育ち家族の食卓を楽しませた。そのクレソンを餌とする巻き貝「カワニナ」が住み着くようになっていた。更に、昨年になってカワニナを餌にするホタルが舞うようになったのだ。それは時を、少し巻き戻したに過ぎない。自然は、常に生きているのだ。水はクレソンを育て、カワニナを運んできた。そして、そのカワニナを餌にするホタルが戻ってきたのである。

 小さい頃、祖母に

 「汚くしていると虫が湧く。」

と言われたが私には「湧く」という言葉の意味が理解できなかった。しかし、「湧く」力を自然は持っているのだ。今まで、生命の営みの感じられなかった用水から、見事にホタルが湧いたのである。美しい自然を取り戻そうとして大きなことをした訳ではない。以前の環境に向けて、ちょっとだけ時計の針を巻き戻しただけなのだ。その結果、自然は生命を呼び戻すことが出来たのである。自然保護が叫ばれる今、私たちは自分のできることから始めればいいのだ。そうすれば、自然は、その力を取り戻し私たちとの共生の道を歩み始める。自然を人の生活のために手を加えることも、確かに必要なことである。しかし、自然は太古からそのあり方を変えてはいないのだろう。私たちが自然と歩み寄り共生する生活を考え、ちょっと自然に寄り添えばいい。ホタルの復活は、観光や経済のためではない。私たちの命が連鎖によってのみ繋がれることを知るために大切なことなのだ。

 今年もホタルが乱舞する光景を見に行こうと思う。そして、私が自然との共生のため何ができるのかを考えてみたい。ホタルの光は、自然や生き物との共生にとって希望の灯火であるのだから。